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京アニに関するほっこりする海外記事のまとめ

京都アニメーションの放火(大量殺人)事件は本当にショックでした。

私は「ハルヒ」で初めて京アニに注目し、「けいおん!」で熱烈なファンとなり、移動前のブログにもいくつか京アニ関係の記事を書いたぐらいの人間です。だから、ちょっとおこがましいかもしれませんが、まるで身内を亡くしたような喪失感があって、かなり落ち込みました。

そんな中で慰められたのは、海外の多くのファンが心のこもった記事を書いてくれたことです。京アニのすごさというのは、細部の微妙なニュアンスにあるので、わかる人は中毒になるくらいハマりますが、正直言うと文化の違う海外の人にまで伝わるのかな? という気もしていました。だから、この人わかってるな、と思わされる英語記事を読むと、何か少し救われたような気がしたのです。

その一部を(著作権侵害にならない程度の部分的な)拙訳もまじえてご紹介します。

・「京都アニメーションの物語はぬくもりやつながりを祝福していた。火災は悲劇的な生命と伝統の喪失である」ガーディアン紙社説ーパトリック・ラム

イギリス最高のクオリティ・ペーパーと言われるガーディアン紙の社説です。著者のパトリック・ラム(Patrick Lum )氏は、ガーディアン・オーストラリア支局の記者のようです。

Like many fans, I wasn’t really aware of specific animation houses or companies when I first got into Japanese animation as a kid. Anime, as far as I was concerned, came from Japan: end of story. But over time, it became apparent that some of my favourite series and movies were all done by the same studio – a powerhouse named Kyoto Animation.

(拙訳)筆者も多くのファンと同様に、子供の頃に初めて日本のアニメーションにはまったときには、特定のアニメーションスタジオや会社は意識していなかった。筆者にとっては、アニメというものは日本から来たものであり、それで話は終わりだった。だが、時間がたつにつれて、筆者のお気に入りのシリーズや映画が、すべて同じスタジオで作られていることがはっきりしてきた。それが京都アニメーションという最強のスタジオだ。

Even aside from their inescapably popular zany proto-memes and self-referential jokes, there was something about these shows that separated them from their contemporaries at the time; a sort of magic that could even make an episode with no apparent story, set mostly in one classroom on a rainy winter day, seem compelling and heartwarming.

(拙訳)抗いがたい人気の楽しいバイラルの元祖(訳注:「ハレ晴レユカイ」のこと)とか楽屋オチのネタ(訳注:「らき☆すた」のこと)とかは別にしても、京アニの作品には、同時代の他の作品とは違う何かがあった。それは、冬の雨の日の教室の中だけで展開するような、はっきりしたストーリーのないエピソードですら、魅力的で心温まるものにする、ある種の魔法だ。

Through all of it, there’s a tendency towards the understated, an understanding of the nuances of body language and expression and silence that produces a sense of warmth, deliberateness and belonging that can be found in the most mundane (Hyouka, K-On!!), bizarre (Kobayashi Maid-dragon) or serious (A Silent Voice) of works.

(拙訳)どの作品にも、控え目な表現への志向、ボディランゲージや身体表現のニュアンスに対する理解、そして、ぬくもりや配慮やつながりの感覚を生み出す静寂があり、それは、もっとも日常的な作品(「氷菓」「けいおん!」)にも、奇妙な作品(「小林さんちのメイドラゴン」)にも、シリアスな作品(「聲の形」)にも見られる。

・「京都アニメーションの影響:知っておくべき5つの点」フォーブズ誌ーローレン・オルシーニ

フォーブズ誌は長者番付とかで有名な金持ちが好きそうな経済誌なんですが、いい記事書いてくれてます。著者のローレン・オルシーニ(Lauren Orsini)氏はゲーム関係を担当する記者のようです。

まず「5つの点」ですが、次の5項目を挙げています。

    1. 進歩的な労働環境(A progressive work environment
    2. 質の高い作品(High-quality production
    3. 個性的なスタイルと語り口(A unique style and voice
    4. 国際的に成功した長編映画(An internationally successful feature film
    5. 後世に残る作品(An enduring body of work

ます、「1.進歩的な労働環境」からの引用。

In an industry where most animators are contractors with few benefits, KyoAni is one of the few that offers perks like maternity leave. The studio’s worker treatment is a beacon in an industry that often burns out animators, showing that fair employment practices and commercial success aren’t at odds after all.

(拙訳)アニメータのほとんどが下請けで報酬以外の手当がほとんどないという業界において、京アニは出産休暇のような制度を提供していた数少ないスタジオの一つだった。このスタジオの労働者の待遇は、アニメータが燃え尽きることの珍しくないアニメ業界の道しるべであり、公正な雇用慣行と商業的成功が最終的に両立可能であることを示している。

「2.質の高い作品」からの引用。

Part of the reason Kyoto Animation is able to provide a consistently high level of quality is that it trains animators in house, rather than leaving them to fend for themselves. Staff members teach at the Kyoto Animation School in order to cultivate new talent at the studio. While KyoAni animators have varying styles, they all follow the same fundamental basics.

(拙訳)京都アニメーションが一貫して高品質の作品を提供できる理由の一つは、独学に任せずにアニメータを社内で訓練していることにある。スタジオの新しい才能を発掘するため、「京都アニメーションプロ養成塾」では社員スタッフが教壇に立っている。京アニにはさまざまなスタイルのアニメータがいるが、全員が同じ基礎技術を継承しているのだ。

「3.個性的なスタイルと語り口」からの引用。

It’s this storytelling that defines the studio’s trademark style and makes KyoAni’s body of work so special. As Nick Creamer writes of KyoAni classic K-On! for Anime News Network, “Characters aren't characterized through big speeches or dramatic ‘lessons learned’ - they're made real by small details of consistent body language.” Everything from a key shift in the soundtrack to a camera close-up on a character’s changing facial expression adds to the story in a way pure dialogue wouldn’t deliver.

(拙訳)京アニのトレードマークとなっているスタイルを定義しているのは、このようなストーリーテリングの方法なのであり、それこそが京アニの作品を特別なものにしているのだ。京アニの古典である「けいおん!」について、「そのキャラクタは大袈裟な演説や劇的な『教訓』によって造形されているのではない。一貫したボディーランゲージの細かいディティールによってリアルに造形されているのだ」とアニメ・ニュース・ネットワークのニック・クレーマーは書いている。サウンドトラックの転調からキャラクタの表情の変化をクローズアップするカメラに至るまでのすべてが、ストーリーに会話だけでは伝えきれないものを加えているのだ。

「4.国際的に成功した長編映画」からの引用。

It is no coincidence that a studio whose animation style focuses on characters’ nonverbal communication is behind an international hit centered around hearing impairment.

(拙訳)キャラクタの非言語的コミュニケーションを重視する京アニのアニメーションのスタイルが、聴覚障碍者を扱った国際的なヒット作品(訳注「聲の形」のこと)の背後にあることは偶然ではない。

「5.後世に残る作品」からの引用。

Even in the most outlandish scenarios, these shows have stories that shine brightest in the moments they portray the commonplace, the relatable everyday moments that make characters come alive. It’s this lasting impact that will ensure that KyoAni’s legacy is strong enough to rise about any tragedy to continue bringing moments of joy to anime viewers.

(拙訳)このような作品は、最も突飛なシナリオのものですら、ありふれた瞬間、キャラクタに生命を吹き込む日常の何気ない瞬間を描くときにこそ、もっとも強い輝きを放つようなストーリーになっている。このような持続的な影響力こそが、京アニの伝統が、いかなる悲劇をも乗り越えて、アニメ視聴者に喜びの瞬間を与え続ける強さを持つことを保証するだろう。

・「京都アニメーション火災、人命と芸術の無残なる喪失」CNNースーザン・ネイピア

CNNはアメリカの有名なケーブルテレビ局。スーザン・ネイピア(Susan Napier)氏はタフツ大学の教授で、アニメーション研究を専門としているようで、さすがに説得力のある記事になっています。

この記事は全文日本語訳があるので、日本語版から引用します。

アニメ産業の職場は男性が多く、作品も伝統的に男性の観客向けのものが多かった。その中で、京アニは同業他社より管理職を含め多くの女性を雇用してきたことで有名だ。

アニメーターを給与制で雇用し、高い質の作品を作り出せるような金銭面や社会保障の環境を整えた。アニメーター向けの学校を何年も運営し、協力や共同作業の重要性を説いてきた。同社の企業理念では真摯(しんし)な姿勢やアーティストを大切にすることに重きが置かれている。

京アニ作品の美しさは、いくら強調してもし尽せない。日本の神道の伝統ではこの世のあらゆるものに神が宿るとされているが、京アニはこうした古来の伝統を、現代の作品世界で表現している。

その素晴らしいアニメ描写にかかれば、教室の机のようなありふれたものからも生命力が沸き立つのを感じる。窓越しにちらりと見える自然の風景は特別な色彩を放ち、日常の向こう側にある神秘と可能性とを見る者に伝えてくる。登場人物も美しく、主人公の少女は傷つきやすそうに見えながら異次元の能力を持つ設定であることが多い。

(2019年7月24日追記)

・「アメリカ人は、銃を悪者にできない京都アニメーションの放火殺人にあまり注目しなかった」USAトゥデイ紙ージェームス・アラン・フォックス

これは少し毛色の違う記事で、アメリカ人は銃乱射事件にはやたらと大騒ぎするが、それ以外の大量殺人事件にはあまり注意を払わないのはいかががものか、という趣旨で京アニ放火事件を引き合いに出したもの。

だから「ほっこりする」という趣旨とはちょっと違うんですが、日本とアメリカの大量殺人事件の捉え方の違いがよくわかる記事なので、これも紹介します。

USAトゥデイ紙というのはアメリカの大衆紙。アメリカの新聞というと、ニューヨーク・タイムズ紙やワシントン・ポスト紙が有名ですが、実はこのような新聞は一部インテリ向けの新聞で、単純な発行部数でいえばUSAトゥデイが最大。ニューヨーク・タイムズが約50万部なのに対し、USAトゥデイは約3倍の150万部です。

筆者のジェームスアラン・フォックス(James Alan Fox)はノースウェスタン大学の犯罪学・法学・公共政策学の教授ですね。

The limited attention here in the United States cannot be explained away on account of distance. Compare the coverage with that of the mosque shootings last March in Christchurch, New Zealand, a location even farther from our shores. U.S. newspapers and wire services featured the Christchurch massacre five times as much as the Kyoto mass murder.

(拙訳)ここアメリカでの注目が限られていたことは、距離だけでは説明がつかない。アメリカからはもっと離れた場所にある、3月のニュージーランド、クライストチャーチのモスク銃撃の報道と比べてみて欲しい。アメリカの新聞や通信社の報道は、京都の大量殺人よりも、クライストチャーチの虐殺の方が5倍多かった。

Sure, there are some differences between the two tragedies in term of victim count and motive. Thursday’s attack involved a personal agenda rather than a political one — never raising the dreadful specter of terrorism. The Kyoto massacre may not have been an act of terror, but the young victims undoubtedly experienced tremendous terror as the flames swelled around them and smoke invaded their lungs.

(拙訳)確かに、この2つの悲劇の間には、犠牲者数や動機などいくつか違いがある。木曜日の(訳注:京アニの)襲撃は、政治目的というより私怨であり、恐ろしいテロリズムの影はなかった。京都の虐殺はテロ行為ではないかもしれないが、若い犠牲者たちは、炎に包まれて煙が肺に入ってきたとき、間違いなくとてつもない恐怖(訳注:=テロ)を感じたであろう。

Mass shootings remain one of the most widely discussed topics here in the United States. By comparison, we just don’t seem to be as unnerved by mass killings carried out by other methods, unless of course they hint of terrorism, be it of foreign or domestic origin.

(拙訳)ここアメリカでは依然として、銃乱射事件はもっとも広く論じられる話題だ。だが対照的に、それ以外の方法で実行された大量殺人に関しては、国内だろうが国外だろうが、テロリズムの兆候がない限りは気にしないようだ。

Given the intense focus on mass shootings, there are countless stories citing statistics drawn from any one of the half-dozen databases that have been assembled in recent years in response to the high level of concern. As far as mass killings with other weapons, there is but one ongoing data source that includes them all: The Associated Press/USA TODAY/Northeastern University Mass Killing Database.

(拙訳)近年、銃乱射事件に対する高い注目度を受けて、その懸念の大きさに対する応答として半ダースものデータベースが構築され、そのいずれかから抽出した統計値に言及した無数の記事が存在する。それ以外の武器による大量殺人に関しては、そのすべてを記録した現行のデータソースはたった一つしかない。AP通信社/USA TODAY/ノースイースタン大学の大量殺人データベースだ。

Whatever the reason, the lesser attention given to mass killings that do not invoke guns is disrespectful to the victims whose lives are tragically cut short. Is the crime any less serious if there were no gunshots? Are the victims any less dead? In fact, victims of burns, suffocation or stabbing often suffer a much slower and painful death than gunshot victims.

(拙訳)理由はどうであれ、銃と無関係な大量殺人に対する関心が低いことは、悲劇によって命を縮められた犠牲者に対して失礼だ。銃撃がなければ、この犯罪はあまり重要ではないとでも言うのか?(訳注:銃撃以外の)犠牲者はあまり悲惨ではないとでも言うのか? 事実、火傷や窒息や刺殺の被害者は、銃撃の被害者よりも、じわじわと苦痛の大きい死に苦しむことが多い。

It is surely fruitless to assess the relative severity of mass killings on the basis of weaponry. Our sense of outrage and concern for the victims should be the same whether they died from a firearm or fire.

(拙訳)大量殺人の相対的な深刻度を武器に基づいて評価するのが不毛なことは間違いない。アメリカ人の犠牲者に対する憤慨や憂慮は、死因が火器であろうが火災であろうが同じであるべきだ。

とりあえず4記事を紹介しましたが、今後もいい記事があれば追加する予定です。またこれ以外にも、海外YouTuberからTwitterアカウントに至るまで、京アニファンの無念と励ましの声は世界中から届いているので、興味のある人は検索してみてください。

あと、これはニュースなどでも報道されたのでご存知の方も多いと思いますが、アメリカのセンタイ・フィルムワークスというアニメ配給会社が、GoFundMeというクラウド・ファンディングのサイトで京アニに向けた義援金を集めています。センタイもGoFundMeも実績のある組織なので、わりと信用できると思いますし、クレジット・カードが使えるので、わりと手軽に寄付できます。私も早速100ドルほど寄付しました。(最終判断は自己責任でお願いします)。

失われたものの大きさを考えると、どうしても絶望的になってしまいますが、私のごとき一ファンが絶望してたら当事者のご本人たちはどうなるんだって話なので、精一杯前を向いて陰ながら応援していきたいと思います。

なお、不謹慎なのでこの記事にはどこからもリンクは貼りません(私自身も炎上狙いのユーチューバーとか見て正直結構ムカついたので)。検索で偶然見つけてくれた人にとって、少しでも励ましになってくれれば嬉しいです。

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